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過失運転致死傷罪とは? 刑罰や逮捕後の流れ、示談について解説
不注意や過失によって人身事故を起こすと、自動車運転処罰法が定める「過失運転致死傷罪」で処罰されます。
令和2年版犯罪白書によると、令和元年に過失運転致死傷罪等で検挙された人員は37万8182人でした。平成17年以降減少し続けてはいるものの、これだけ多くの人が検挙されている状況を見れば、決して人ごとではない犯罪であると分かります。
過失運転致死傷罪は、故意がなく思いがけず事故を起こしてしまった場合でも適用され得る犯罪ですが、どのような刑罰がくだされるのでしょうか? 本コラムでは過失運転致死傷罪の概要や刑罰、事故を起こした場合に必要な対応などを解説します。
1、過失運転致死傷罪の要件と刑罰
過失運転致死傷罪とはどのような犯罪なのでしょうか?犯罪が成立する要件や刑罰の内容を確認しましょう。
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(1)過失運転致死傷罪の定義
過失運転致死傷罪とは、自動車の運転上必要な注意を怠り、人を負傷または死亡させてしまった場合に成立する犯罪です。「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(通称:自動車運転処罰法)の第5条に規定されています。
“自動車の運転上必要な注意”とは、道路交通法で自動車の運転者に課せられた注意義務のことです。
下記のような不注意で人身事故を起こした場合は本罪の適用を受けます。
- 前方不注意(わき見運転、漫然運転、車間距離不保持など)
- 徐行や一時停止の無視
- 速度超過
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(2)過失運転致死傷罪の刑罰
過失運転致死傷罪の刑罰は「7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」です。
懲役とは刑務所に収監されて刑務作業に従事する刑、禁錮とは刑務作業はないものの刑務所に収監される刑を指します。罰金は1万円以上の金銭を徴収される刑です。
同条ただし書きには、その傷害が軽いときは情状によって刑を免除することができると明記されています。そのため負傷の程度が軽い事故で悪質性が高いとまではいえないケースでは、刑罰を科されない可能性があります。
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2、危険運転致死傷罪に該当する要件とは
過失運転致死傷罪は不注意やミスで成立してしまう犯罪なので、罪に問われた人は事故を起こすつもりがあったわけではありません。
それに対し、自らの運転が危険であると認識していながらその運転を続け、人を死傷させた場合は「危険運転致死傷罪」が成立し、厳しく罰せられます。
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(1)危険運転致死傷罪の定義
危険運転致死傷罪は自動車運転処罰法第2条1号~8号に掲げられた危険運転を行うことにより、人を負傷または死亡させた場合に成立します。
- 1号:飲酒や薬物の影響の影響により正常な運転が困難な状態で運転する行為
- 2号:制御困難な高速度で運転する行為
- 3号:進行を制御する技能がない状態で運転する行為
- 4号:通行妨害目的で、走行中の自動車の直前に進入する、人や車に著しく接近するなどし、かつ重大な危険を生じさせる速度で運転する行為
- 5号:通行妨害目的で、走行中の車の前方で停止するなどの方法で運転する行為
- 6号:高速自動車国道または自動車専用道路において、通行妨害目的で車の前方で停止するなどの方法で運転し、走行中の自動車に停止または徐行させる行為
- 7号:赤信号などを殊更に無視し、かつ重大な危険を生じさせる速度で運転する行為
- 8号:通行禁止道路を進行し、かつ重大な危険を生じさせる速度で運転する行為
なお、5号と6号は、あおり運転による死亡事故が多発したことを受け、令和2年7月に追加された規定です。
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(2)危険運転致死傷罪の刑罰
危険運転致死傷罪の刑罰は人を負傷させた場合が「15年以下の懲役」、人を死亡させた場合が「1年以上の有期懲役」です。
過失運転致死傷罪は最長で懲役7年です。また罰金刑の規定があるため、有罪になっても必ず刑務所に収監されるわけではありません。
これに対し、危険運転致死傷罪は最長で懲役20年まであり、さらに罰金刑の規定はないため、執行猶予がつかない限り刑務所への収監は免れません。
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3、過失運転致死傷罪で刑が加重される場合
不注意やミスによる人身事故でも、悪質なケースでは刑が加重されます。
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(1)飲酒や薬物の影響の発覚を免れようとした場合
アルコールや薬物の影響により正常な運転に支障が出るおそれがある状態で運転し、過失運転致死傷罪を犯した者が、アルコールや薬物による影響の有無や程度を発覚することを免れる目的で次のいずれかの行為をした場合は「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」が成立します(自動車運転処罰法第4条)。
- さらにアルコールまたは薬物を摂取すること
- その場を離れ、体中のアルコールまたは薬物の濃度を減少させようとしたこと
- その他、アルコールや薬物の影響の有無や程度が発覚することを免れる行為をしたこと
いわゆる「逃げ得」を許さないために設けられている規定であり、刑罰は「12年以下の懲役」に加重されます。
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(2)無免許運転だった場合
過失運転致死傷罪を犯した者が、罪を犯したときに無免許だった場合も刑が加重されます(同第6条4項)。刑罰は「10年以下の懲役」です。
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4、過失運転致死傷罪の取り締まり対象は“自転車”や“バイク”も含む?
“自動車”と聞くと、一般に乗用車やトラックなどを思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、道路交通法第2条第1項9号では、自動車を「原動機を用い、かつ、レールまたは架線によらないで運転する車」と定義しています。原動機付自転車(原付)や軽車両(自転車など)は除かれますが、自動二輪車(バイク)は自動車に含まれます。
また、自動車運転処罰法第1条では、自動車を「道路交通法第2条第1項9号に規定する自動車および同項第10号に規定する原動機付自転車」と定義しています。
つまり、バイクや原動機付自転車は自動車運転処罰法の適用を受け、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪の取り締まり対象となります。
なお、“自転車”を運転中に人に衝突して死傷させてしまった場合は、過失運転致死傷罪は成立しません。
ただし、刑法の過失致死傷罪や重過失致死傷罪が成立するおそれはあります(第209条、210条、211条後段)。スマホを操作しながら自転車を運転するなど悪質な行為が多発しているため、警察が取り締まりを強化しているだけでなく、裁判所が厳しい判断を下す事例も増えています。
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5、交通事件における有罪内容の内訳
令和2年版犯罪白書によると、令和元年に交通事件により通常第一審で懲役または禁錮を言い渡された者の科刑状況は以下のとおりです。
罪名 | 総数 | 実刑判決(実刑の割合) |
---|---|---|
危険運転致傷 | 255 | 29(11.4%) |
危険運転致死 | 12 | 12(100%) |
過失運転致傷 | 2533 | 55(2.2%) |
過失運転致死 | 1252 | 58(4.6%) |
道路交通法違反 | 5583 | 911(16.3%) |
危険運転行為による危険運転致死傷罪よりも、不注意や過失による過失運転致死傷罪のほうが、実刑判決の割合が低いことが分かります。過失運転致死傷罪では事故の内容次第ではあるものの、執行猶予がつく可能性はかなり高いといえるでしょう。
また危険運転致死傷罪、過失運転致死傷罪ともに、致傷よりも致死の実刑判決の割合が高く、結果の重大性が、科される刑に影響していることが分かります。
なお、道路交通法違反については、1年未満の刑の割合は執行猶予を含めて77.2%と、短期刑を言い渡される傾向も見られました。
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6、逮捕された後の流れ
過失運転致死傷事件では、人を負傷または死亡させていることから逮捕されてしまうケースもあります。逮捕された後の流れを確認しましょう。
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(1)逮捕から勾留まで
警察に逮捕されると48時間以内に取調べを受け、検察官に送致されます。送致後は検察官からも取調べを受け、送致から24時間以内に起訴されるか、釈放されるかが決定します。
しかし、ここまでの72時間以内で捜査が完了せず、検察官が引き続き被疑者の身柄を拘束して取り調べるべきだと判断すると、裁判官に勾留を請求します。裁判官が勾留を認めると原則10日間、延長でさらに10日間、あわせて最長20日間の勾留を受けます。
もっとも、過失運転致死傷事件では勾留されずに釈放され、在宅捜査に切り替わるケースも多くあります。不注意による事故で、逮捕段階で証拠が確保されているケースが多数ですから、あえて被疑者が逃亡したり被害者に接触して証拠隠滅を図ったりするおそれは高くないと考えられているためです。 -
(2)起訴、不起訴の決定
送致から24時間以内、または勾留が満期を迎えるまでに、検察官は被疑者を起訴するか不起訴とするかを判断します。
不起訴になった場合は即日で身柄を釈放され、刑事裁判を受けることはありません。一方、起訴された場合は保釈されない限り起訴後勾留を受け、刑事裁判を待つ身となります。
なお、悪質な違反などが存在しない過失運転致死傷事件の場合は、正式起訴ではなく略式起訴され、略式命令による罰金刑となるケースも少なくありません。この場合は罰金を納付して身柄釈放となりますが、前科はついてしまいます。
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7、交通事故を起こしたら早期に弁護士に相談を
もしも自分や身近な人が交通事故で人を死傷させてしまったら、早期に弁護士へ相談しましょう。過失であっても人の死傷という重大な結果を生じさせている以上、逮捕、起訴され、有罪判決となるおそれがあります。
弁護士に相談すると、身柄釈放や処分の軽減に向けたサポートを受けられます。
特に被害者や遺族との示談交渉は重要です。真摯(しんし)な謝罪と賠償を尽くすことで示談が成立し、被害者や遺族から許してもらえれば、検察官が不起訴とする可能性が高まります。
さらに、起訴されてしまった場合でも、示談が成立した事実は被疑者に有利な情状として扱われ、刑が減軽される可能性があります。
交通事故の示談交渉は、いつ、どのようなかたちで謝罪に行くべきか、いくらの示談金を支払うべきかなど、事故の結果や状況に応じて考えるべき点が多くあります。示談交渉の経験が豊富な弁護士に相談しながら進めていく必要があるでしょう。
また、被害者の過失が原因で起きた事故など十分な注意を払っても防げなかった事故の場合は、証拠を収集する、被害者・目撃者証言の矛盾を追及するなど、不起訴処分や無罪判決を目指したサポートにも期待できます。過失がなかったことを立証するのは簡単ではありませんが、弁護士が法的な知識や経験を踏まえて活動すれば立証できる可能性はあるといえます。
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8、まとめ
自動車を運転する者には道路交通法で定められた注意義務があり、これを怠った結果として人を死傷させると過失運転致死傷罪で罰せられるおそれがあります。また危険運転による死傷事故を起こすと危険運転致死傷罪に該当し、さらに厳しく処罰されます。
逮捕・勾留や重すぎる刑を回避するには弁護士のサポートが不可欠です。被害者・遺族との示談交渉や身柄の早期釈放に向けた働きかけは弁護士でなければ難しいため、早急に相談してサポートを受けましょう。
交通事件の弁護経験が豊富なベリーベスト法律事務所が尽力します。交通事故を起こしてしまって不安を抱えている方はご連絡ください。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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