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交通事故(死亡事故)に執行猶予はつく? 実刑の判断要素とは
令和2年版犯罪白書「交通事件 通常第一審における有罪人員の科刑状況」によると、令和元年に交通事件により懲役または禁錮の言い渡しを受けた者のうち、実刑判決を受けた者の割合は危険運転致死傷罪(致死事件)が適用された場合が100%、過失運転致死傷罪(致死事件)は4.6%でした。
過失運転致死傷罪では95.4%の人員が執行猶予つき判決となっているため、死亡事故でも執行猶予がつく可能性は十分にあることが見てとれます。とはいえ、どのような事故でどの罪が適用されるのか、執行猶予となるために必要な取り組みは何かなど疑問に感じることも多いでしょう。
本コラムでは交通事故(死亡事故)で実刑判決と執行猶予つき判決を分ける要素や実刑判決を回避するために必要な行動について解説します。
1、交通事故(死亡事故)に執行猶予はつくのか
死亡事故の加害者として起訴されてしまったら、実刑判決になるのか、執行猶予つき判決になるのかは大きな関心事でしょう。執行猶予の概要と死亡事故で執行猶予がつく可能性について解説します。
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(1)執行猶予とは
執行猶予とは、一定期間刑の執行を猶予し、猶予期間中に再犯しないことを条件に刑の言い渡しの効力が失われる制度をいいます(刑法第25条、27条)。
つまり、執行猶予の場合はただちには刑務所へは収監されず、社会の中で生活しながら更生を図れるということです。
実刑判決を受けて刑務所に収監されてしまうと不自由な生活を余儀なくされるだけでなく、会社を解雇されたり、退学処分になってしまったりと、空白の期間ができるため服役後の再出発も難しくなるといった不利益が想定されます。
そのため、死傷者がでた交通事故の場合、執行猶予がつくかどうかは重要な問題だといえるでしょう。 -
(2)死亡事故における執行猶予の可能性
執行猶予付きで社会生活を送るためには、以下のような条件があります。
- 3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金の言い渡しを受けている
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行が終わってからまたは執行の免除を受けてから5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない
もし死亡事故であっても上記の条件を満たし、裁判官が情状を認めて執行猶予を付すべきと判断すれば、執行猶予がつく可能性があります。
なお“情状”とは、刑の重さを判断するときの事情のことです。犯行の動機、被害の重さ、前科の有無、犯人の年齢、被害者への謝罪や和解の有無、被害者の家族の状況など、犯罪事実から社会的背景まで広い範囲の事情が考慮されます。
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2、死亡事故を起こした際の刑事罰
自動車の運転による死亡事故を起こした場合に問われる罪は大きく分けて2つです。
- 過失運転致死傷罪
- 危険運転致死傷罪
いずれも自動車運転処罰法に定められた犯罪ですが、刑事罰はどのくらいなのでしょうか。それぞれの罪の概要を解説しながら、刑事罰の内容を確認します。
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(1)過失運転致死傷罪
過失運転致死傷罪は道路交通法で運転者に課せられた注意を怠り、人を死傷させることで成立する犯罪です(自動車運転処罰法第5条)。
交通事故は多くが故意のない過失、不注意によって引き起こされています。しかし故意がなければ無制限に許されるというわけではありません。自動車の運転者は運転に際し、他人に害をおよぼさないよう細心の注意を払って運転する義務があるからです。
- 脇見運転をした
- 一時停止を怠った
- 標識を見落とした
といった注意義務違反により人を負傷または死亡させた事故の多くは、過失運転致死傷罪によって処罰されます。
過失運転致死傷罪の刑事罰は「7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」です。同条ただし書きでは、「その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる」旨が規定されていますが、当然ながら死亡事故には適用されません。
本罪では「致死」と「致傷」のいずれも同じ法定刑が適用されます。しかし「致死」のほうが「致傷」より重大な結果を招いていることは明らかなので、死亡事故では刑が重くなるおそれがあります。 -
(2)危険運転致死傷罪
危険運転致死傷罪とは、危険運転であるとの認識がありながら運転を行い、人を死亡または負傷させた場合に成立する犯罪です(自動車運転処罰法第2条)。
何が危険運転にあたるのかは同条第1号から第8号までに定められています。
- 1号……アルコールまたは薬物の影響で正常な運転が困難な状態で走行させる行為
- 2号……進行を制御するのが困難な高速度で走行させる行為
- 3号……進行を制御する技能を有しない状態で走行させる行為
- 4号……人や車の通行を妨害する目的で割り込みや著しい接近をし、かつ重大な危険を生じさせる速度で走行させる行為
- 5号……車の通行を妨害する目的で走行中の車の前方で停止するなど著しく接近することになる方法で運転する行為
- 6号……高速自動車国道などにおいて、自動車の通行を妨害する目的で走行中の自動車の前方で停止するなど著しく接近することになる方法で運転し、走行中の自動車を停止または徐行させる行為
- 7号……赤信号を殊更に無視して重大な危険を生じさせる速度で走行させる行為
- 8号……通行禁止道路を進行し、かつ重大な危険を生じさせる速度で走行させる行為
なお、5号と6号はいわゆる“あおり運転”による死亡事故が多発したことを受け、令和2年6月30日から施行された規定です。
危険運転致死傷罪の刑事罰は人を負傷させたか、死亡させたかによって異なります。
- 負傷させた場合……15年以下の懲役
- 死亡させた場合……1年以上の有期懲役
過失運転致死傷罪と異なり、罰金刑の規定はありません。
なお“有期懲役”とは、1か月以上20年以下の懲役をいいます。したがって死亡事故で本罪が適用された場合は、最長で20年もの間、刑務所で服役することになります。
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3、執行猶予を獲得するための方法
死亡事故で執行猶予がつくかどうかは、事故の様態や経緯、事故後の状況など複数の事情によって左右されます。実刑判決になりやすい要素を挙げたうえで、執行猶予を得るために何が必要かを解説します。
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(1)実刑判決になりやすい要素
以下のような要素があると実刑判決になるおそれが高まります。
- 重大・悪質な交通違反をともなっている 飲酒運転や無免許運転、救護義務違反(ひき逃げ)などの重大・悪質な交通違反をともなうケースは実刑判決になりやすいでしょう。
- 過失の程度が大きい 速度制限を大幅にオーバーしていた、スマホを操作しながら運転していたといったケースは重い過失があると判断されやすくなります。
- 遺族への謝罪や賠償が尽くされていない 任意保険に未加入のため遺族に十分な賠償金を払えないようなケースは実刑となるおそれがあります。
- 被害者の人数が多い 被害者が複数人いれば被害結果が大きく、それぞれの遺族への賠償も難しくなるため、実刑判決になるおそれが高まります。
- 交通違反による前科・前歴が複数ある 交通ルールを守るという規範意識が低く、更生にも期待できないため、実刑判決になるおそれが高いでしょう。
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(2)執行猶予のために主張すべき事情
執行猶予を得るためには、事故を起こした経緯に同情すべき事情や、やむを得ない事情があったことを適切に主張する必要があります。
たとえば、ほかの事故に巻き込まれる形で事故を起こした、被害者が無灯火で自転車を運転しており発見が困難だったため重い過失とまではいえないといった事情です。
遺族への謝罪と賠償を尽くし、処罰感情が緩和されている場合も執行猶予がつく可能性が高まります。運転者の過失の度合いが大きくなく、悪質とまではいえない事故であれば遺族から宥恕(ゆうじょ)意思を得られる可能性があります。
さらに再犯防止のために今後は自動車を運転しないと誓約し、自動車を手放して免許を返納するなど具体的な防止策を講じることも大切です。更生に期待できるとして執行猶予がつく可能性を高められるでしょう。
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4、執行猶予中に再度交通事故を起こした場合
刑法第26条の第1項第1号では、「猶予の期間内にさらに罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言い渡しがないとき」に、必ず執行猶予を取り消す旨が定められています。
つまり、交通事故の執行猶予中にふたたび交通事故を起こし、その罪で禁錮以上の実刑判決となった場合は必ず執行猶予が取り消されます。
また刑法第26条の2第1項第1号では「猶予の期間内にさらに罪を犯し、罰金に処せられたとき」に執行猶予を取り消すことができる旨が定められています。
したがって、執行猶予中に起こした交通事故で罰金刑だったケースでも、執行猶予が取り消される可能性があるわけです。
執行猶予が取り消されると、前の交通事故で言い渡された刑期を服役することになります。さらに今回の交通事故で実刑が言い渡されていれば、その刑期も加えた期間、服役しなければなりません。
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5、交通事故における弁護活動
交通事故、それも死亡事故を起こしてしまった場合は重大な結果が生じているため、実刑判決となるおそれがあります。重すぎる処分を避けるためには弁護士に弁護活動を依頼することが大切です。
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(1)遺族との示談交渉
遺族に対して謝罪と賠償を尽くし、判決確定前に示談が成立すると、被告人に有利な事情として扱われ、判決に執行猶予がつく可能性が高まります。
交通事故では保険会社が示談交渉する場合も多いですが、保険会社の示談はあくまでも民事上の損害賠償を目的としたものであり、刑事事件への影響が考慮されるわけではありません。そのため保険会社の示談とは別に、弁護士を通じて謝罪金や見舞金を支払うなどし、遺族から謝罪を受け入れてもらうための活動も必要となります。 -
(2)略式裁判による罰金刑を目指した活動
裁判は公開の法廷で開かれる通常の裁判と、公開の法廷が開かれず書面のみで審理される略式裁判があります。
悪質な死亡事故では公判請求はほぼ免れませんが、運転者の過失が大きいとまではいえない、遺族の処罰意思が少ないなどの事情があれば、略式裁判となる可能性は残されています。
略式裁判では罰金が言い渡されるため、前科はつくものの刑務所には収監されず社会の中で更生を図ることが許されます。
弁護士は検察官に対して、事故の経緯などについて酌むべき事情があることを的確に主張する、遺族に厳罰を求めない旨の嘆願書を作成してもらい検察官に提出する、といった活動を行います。 -
(3)不起訴処分や無罪判決を目指した活動
事故の状況によっては不起訴処分や無罪判決となる可能性があります。たとえば被害者が赤信号を無視して突然飛び出してきたため衝突したなど、運転者が十分な注意を払っても事故を回避できなかったケースです。
弁護士が検察官や裁判官に対し、目撃者の証言に矛盾点があることを指摘する、過失の事実を裏付ける証拠がないと主張するなどして不起訴処分や無罪判決を目指した活動を展開します。
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6、まとめ
交通事故を起こして被害者を死亡させてしまった場合、人の死亡という重大な結果を生じさせていることから実刑判決がくだるおそれが高まります。
しかし、重い過失とまではいえない交通事故で遺族への賠償も尽くされているケースなどでは判決に執行猶予がつく可能性があります。
死亡事故で執行猶予を得るには弁護士のサポートが不可欠です。自分の家族など身近な人が死亡事故を起こしてしまい、実刑判決を回避したいとお考えなら、交通事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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