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交通事故で過失運転致傷罪に! 不起訴になる可能性はある?
ニュースや新聞で交通事故の発生が報じられない日はありません。軽微な物損事故はほとんど報道の対象として取り上げられず、報じられる交通事故は死傷者が生じた人身事故ばかりです。
人身事故の報道では、事故を起こした当事者について「過失運転致傷罪の疑いで逮捕」などと報じられることがあります。不注意やミスによって交通事故を起こしただけなのになぜ犯罪者のように報じられるのか、そもそもわざとではないのに犯罪になるのか、気になる方も多いでしょう。実際に過失運転致傷罪に問われている状況なら、不起訴になって刑罰を科せられずに済む可能性があるのかも気がかりなところです。
本コラムでは「過失運転致傷罪」について、どのような行為で罪に問われるのか、罰則の重さや不起訴になる可能性などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、過失運転致傷罪とは? 不注意の事故でも罪になるのか?
刑法第38条1項には「罪を犯す意思がない行為は罰しない」という規定があります。
つまり、不注意やミスが原因の「過失」は罪を問われないのが法律の原則的な考え方です。ただし、同条には「法律に特別の規定がある場合はこの限りでない」というただし書きがあります。
刑法や別の法律において「過失であっても罪になる」という定めがある場合は処罰の対象であり、そのひとつが「過失運転致死傷罪」です。
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(1)過失運転致傷罪を定める「自動車運転処罰法」
過失運転致傷罪は、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」、いわゆる「自動車運転処罰法」という法律に定められている犯罪です。過失運転致傷罪のほか、危険運転致死傷罪などが規定されています。
近年話題に上ることの多い、高速度の暴走運転による事故やあおり運転による事故でも本法が適用されるため、名称を耳にしたことのある方は多いでしょう。 -
(2)過失運転致傷罪に問われる行為
自動車運転処罰法第5条の条文によると「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者」が処罰の対象です。
車やバイクの運転中に不注意やミスが原因で交通事故を起こして人を負傷させると本罪が成立します。負傷者が生じた、いわゆる「人身事故」の当事者を罰するもので、死者が生じた交通死亡事故の場合は、同じ条文に定められている過失運転致死罪が適用されます。
なお、本罪の条文によると保護される対象は「人」とされており、事故の相手に限っていません。もし、自分の同乗者がケガをした場合も本罪の処罰対象になるので、相手がいない単独事故でも罪を問われる可能性があります。
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2、過失運転致傷罪の罰則と行政処分
交通事故を起こした場合、多くは、加入している自動車保険の会社に対応を任せることになるでしょう。人身事故の場合は、相手のケガの治療費や車の修理費用などの賠償が発生しますが、これらの対応は保険会社に任せることが多いです。
ただし、過失運転致傷罪にあたる場合は、賠償責任とは別に刑事罰と行政処分の対象にもなるので、自動車保険に加入しているだけですべて解決というわけにはいきません。
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(1)過失運転致傷罪の刑事罰
過失運転致傷罪の罰則は、7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金です。
法律の定めに照らすと懲役が言い渡されて刑務所に収監される可能性があるのだという事実を知っておきましょう。
ただし、負傷の程度が軽い場合は「情状によりその刑を免除することができる」という定めもあるので、軽傷事故で特に重大な過失がなければ罪を問われない可能性もあり得ます。 -
(2)人身事故で加算される点数と行政処分
人身事故を起こすと、事故点数が加算されます。
加算される点数は、負傷の重さに応じて次のように変わります。
負傷の重さ 事故点数 治療期間が 3か月以上 または 後遺障害が残る場合 13点 か 9点 治療期間が 30日以上 3か月未満の場合 9点 か 6点 治療期間が 15日以上 30日未満の場合 6点 か 4点 治療期間が 15日未満の場合 3点 か 2点
さらに、人身事故を起こすと、単純な不注意やミスでも「安全運転義務違反」の2点が基礎点数として加算されます。つまり、上記の点数に加えてさらに2点が追加されると考えてください。
行政処分は過去の交通違反の点数も含めた累積点数によって下されます。
たとえばこれまでに行政処分を受けた経歴がなくても6点で30日の免許停止、9点で60日の免許停止です。加療3か月以上の重傷事故だと基礎点数2点+事故点数13点=15点で免許が取り消され、1年間は再取得も認められません。
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3、過失運転致傷罪で不起訴になる可能性は?
過失運転致傷罪に問われても、刑罰を受けるのは、刑事裁判で有罪判決を受けたときだけです。刑事裁判が開かれるのは検察官が裁判所に対して起訴したときだけなので、言い換えれば「不起訴になれば罪は問われない」といえます。
では、過失運転致傷罪で不起訴になる可能性はあるのでしょうか?
令和4年版の犯罪白書から、令和3年中の検挙・不起訴の状況をみていきます。
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(1)過失運転致傷罪の検挙状況
令和3年中に過失運転致傷罪の被疑で警察等に検挙された件数は28万7000件でした。
窃盗などの刑法犯と銃刀法違反などの特別法犯で送致された件数は合計で27万1489件だったので、ほぼ同等とはいえそれを上回る数の人が過失運転致傷罪の被疑で検察庁へと送致・書類送検されていることになります。 -
(2)過失運転致傷罪は不起訴になる可能性がある
致傷・致死をあわせて過失運転致死傷罪で正式な刑事裁判が提起された割合は、1.5%でした。
書面のみで審理される略式手続で処分された割合は11.8%、少年が起こした事故で家庭裁判所へ送致された割合は2.7%だったので、残る84.0%は不起訴になっている計算です。
割合だけみれば人身事故を起こしてもほとんどのケースで不起訴になっているというのが現実ですが、少数とはいえ起訴されて罪を問われているという状況があることを無視してはいけません。
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4、過失運転致傷罪で不起訴を得るためにするべきこと
起訴率が低いといっても、何もせずに不起訴を得られると考えるのは間違いです。
不注意やミスが原因で故意に事故を起こしたわけではないとはいえ、過失運転致傷という罪を犯しているのだから、不起訴を得るための対策を尽くさなくてはなりません。
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(1)保険会社が不起訴に向けたサポートをしてくれるわけではない
交通事故の対応は「すべて保険会社に任せておけばよい」と考えるのは間違いです。
保険会社がサポートするのは負傷者の治療費や壊れた車などの修理費用といった賠償面だけであり、刑事罰や行政処分が軽くなるようにはたらきかけてくれるわけではありません。
もちろん、治療費などは思いがけず高額の支出になることも多いので賠償面のサポートは大切ですが、保険会社の対応だけで安心してはいけません。
刑事罰や行政処分の軽減を望むなら、弁護士に相談するべきです。 -
(2)弁護士による示談交渉が重要
交通事故を起こすと、保険会社が相手と話し合いをして「示談」を進めてくれます。
しかし、保険会社が担当する示談の内容は賠償に関する部分だけで「示談が成立したら今後は治療費や修理費用などの請求や訴えを起こさない」という約束に過ぎません。
過失運転致傷罪として刑罰が科せられ、前科がついてしまう事態を避けるには、保険会社による示談とは別に「刑事罰は望まない」という内容の示談を成立させる必要があります。
しかし、加害者と被害者が本人同士で話し合うと、お互いに熱くなってしまい話し合いが前に進まないおそれもあるので、第三者として弁護士に対応を任せたほうが安全です。 -
(3)検察官へのはたらきかけも大切
刑事事件の起訴・不起訴を決められるのは検察官だけです。
警察の段階で深い反省を伝えても、検察官の判断次第では起訴されてしまうおそれがあります。
不起訴を得るためには、検察官に対して深い反省の気持ちや事故の再発防止に向けた取り組みを示さなければなりません。嫌疑をかけられている本人には検察官による取り調べにおいて弁明の機会が与えられますが、その機会だけでは十分に反省や取り組みが伝わらない可能性があるので、弁護士からのはたらきかけが大切になります。 -
(4)時には過失を争うことも必要
上記は、あくまで過失の責任があることを前提にしていますが、そもそも過失というのは法的な評価で決まるものなので、それを認めるかどうかの議論が生まれやすいところもあります。犯罪があったなら罪に問うのが原則なので、そもそも犯罪なのかという点をしっかり考えることも、不起訴という結論のためには必要なアプローチです。
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5、まとめ
不注意やミスが原因でも、交通事故で相手にケガをさせると過失運転致傷罪に問われます。
実際の統計をみると不起訴になる可能性が高いものの、法律の定めでは懲役に問われるおそれもあるので「どうせ罪には問われない」などと軽視してはいけません。
人身事故を起こして過失運転致傷罪に問われている状況なら、保険会社だけでなく弁護士のサポートも必要です。不起訴を得たい、厳しい刑罰を回避したいとお望みなら、交通事故トラブルの解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所へご相談ください。
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
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