- 性・風俗事件
- おしつけ痴漢
- 逮捕
「おしつけ痴漢」で逮捕! 問われる罪や逮捕後の流れを弁護士が解説
警察庁によれば、令和5年中の痴漢の検挙件数は2,254件でした。そのうち電車やバスなど乗り物内での検挙の割合が51.1%、駅構内が7.6%、ショッピングモール等商業施設が14.5%などと、ごく日常的な場面で起きています。
電車や駅構内の痴漢で典型的なのは、人の胸や尻を手で触る、なでまわすなどの行為でしょう。しかしこの類型に限らず、自分の身体をおしつける「おしつけ痴漢」と呼ばれる痴漢があります。手を使わないため「痴漢ではない」と考える方もいるようですが、れっきとした痴漢行為であり、逮捕される場合もあります。
本コラムでは、おしつけ痴漢がどのような犯罪に該当し、どのような罪に問われるのかといった解説をはじめ、おしつけ痴漢で逮捕された場合に弁護士へ相談すべき理由などを解説します。
令和5年7月13日に強制わいせつ罪は「不同意わいせつ罪」へ改正されました。
1、触らず、おしつける行為も痴漢とみなされる
痴漢というと、被害者の胸や尻を触る、もむ、手指でなでまわすなどの行為が典型的です。しかし手指で触らない痴漢も存在します。
-
(1)「おしつけ痴漢」とは
次のような行為は、一般的に「おしつけ痴漢」と呼ばれています。
- 自分の下半身を被害者の身体におしつける
- 自分の手の甲や腕を被害者の胸や尻におしあてる
- 被害者の背後から自分の身体全体を密着させる
手指で触るわけではないため痴漢に該当しないと考えるのは間違いで、意図的におしつけ行為をすれば痴漢とみなされます。
-
(2)故意のおしつけ行為が犯罪になる
おしつけ行為が故意(犯罪との認識がありながら行為におよぶこと)ではない場合は痴漢には該当しません。
たとえば網棚に置いた荷物を取ろうとしたところ、近くにいた乗客の身体に偶然腕が当たってしまったなどのケースです。
しかし身体をおしつけたまま離そうとしないなどの行動を取れば、おしつけ痴漢とみなされる可能性があります。 -
(3)おしつけ痴漢では逮捕者や懲戒免職者も
おしつけ痴漢では実際に逮捕者もでています。
平成27年9月には、JR奈良線を走行中の車内で、女性に下半身をおしつけた大手企業の男性社員が逮捕される事件がありました。別の女性からの被害相談を受けた鉄道警察隊が警戒中の犯行だったようです。
また令和2年7月には、前月に大阪メトロ御堂筋線を走行中の車内で女性の尻に下半身をおしつけた男性教諭が、教育委員会から懲戒免職処分を受けています。この事件では逮捕にはいたらなかったものの、犯行事実が明るみに出て公務員の職を失う事態となりました。
2、痴漢行為を取り締まる法律や条例
痴漢罪という罪名はありませんが、痴漢はもちろん犯罪行為です。行為の内容や悪質性などによって、刑法の不同意わいせつ罪や都道府県の迷惑防止条例違反に該当します。
-
(1)不同意わいせつ罪
不同意わいせつ罪とは、一定の原因のもと、被害者が「同意しない意思を形成し、表明し、もしくは全うすることが困難な状態にさせ、またはその状態にあることに乗じてわいせつな行為をした」場合に成立する犯罪です。(刑法第176条)。
不同意わいせつ罪が成立する要件となる一定の原因とは、以下の8つの行為および事由です。
- 暴行や脅迫を用いる、またはそれらを受けたこと。
- 心身の障害を生じさせる、またはそれがあること。
- アルコールや薬物を摂取させる、またはそれらの影響があること。
- 睡眠やその他の意識が明瞭でない状態にさせる、またはその状態にあること。
- 同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがないこと。
- 予想と異なる事態に直面させて恐怖・驚愕(きょうがく)させる、またはその事態に直面して恐怖・驚愕していること。
- 虐待に起因する心理的反応を生じさせる、またはその心理的反応があること。
- 経済的や社会的な地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させる、またはそれを憂慮していること。
おしつけ痴漢の中でも、悪質性が高い場合は、不同意わいせつ罪に問われる可能性があるでしょう。 不同意わいせつ罪の罰則は6か月以上10年以下の拘禁刑です。罰金刑などは設けられておらず、有罪になれば執行猶予がつかない限り刑務所へ収監されます。 -
(2)迷惑防止条例
迷惑防止条例とは、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為を防止し、住民の平穏を守るために、各都道府県に設けられている条例の総称です。
都道府県によって内容や罰則に多少の違いがありますが、大枠では共通しています。ここでは東京都の条例で確認しましょう。
東京都の迷惑防止条例の第5条1項では、「正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、または人に不安を覚えさせるような行為」であって、「公共の場所または公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上からまたは直接に人の身体に触れる行為」を禁止しています。
上記の規定に「手指で触る」「なでまわす」といった要件はありません。つまり、人を著しく羞恥させる行為であれば、自分の身体を人におしつける行為も迷惑防止条例違反の痴漢に該当するわけです。
東京都の場合、罰則は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金です(第8条1項2号)。
弁護士との電話相談が無料でできる
刑事事件緊急相談ダイヤル
- お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- 警察が未介入の事件のご相談は来所が必要です。
- 被害者からのご相談は有料となる場合があります。
3、痴漢行為で逮捕されるタイミング
おしつけ痴漢で逮捕されるのは、現行犯逮捕か通常逮捕のいずれかのケースが多いでしょう。
-
(1)現行犯逮捕される場合
現行犯逮捕とは、犯行の最中や犯行のすぐ後になされる逮捕をいいます(刑事訴訟法第212条)。犯人を見間違うおそれが低いため、一般市民による逮捕も可能です。
電車内の痴漢の場合は、被害者や周囲の乗客、駅員などに現行犯逮捕され、警察に身柄を引き渡されるケースが考えられるでしょう。警戒活動中の鉄道警察隊員に犯行を目撃され、その場で現行犯逮捕されるケースもあります。 -
(2)通常逮捕される場合
通常逮捕とは、裁判官が発付する逮捕状にもとづき、警察官や検察官によってなされる原則的な逮捕手続きをいいます(刑事訴訟法第199条)。
痴漢と聞くと現行犯逮捕のイメージがあるかもしれません。
しかし「被害者に犯行を指摘されたため逃走した」「被害者が恐怖心から声をあげなかった」などで現行犯逮捕されなかった場合でも、後日に通常逮捕される可能性は十分にあります。
おしつけ痴漢で通常逮捕されるケースとして考えられるのは、防犯カメラで犯行の様子と犯人が確認された場合などです。
被害者・目撃者の情報やSuicaなどの電子カードの使用歴など、複数の情報から犯人として特定される可能性もあります。
また、防犯カメラだけでは犯人の特定にいたらなくても、被害者からの「いつも自分の近くにいる人だった」という情報や、目撃者からの「いつも同じ時間帯に乗り合わせる人だった」などの情報をもとに特定につながる可能性があります。
4、痴漢で逮捕された場合に弁護士に相談すべき理由
逮捕されると、72時間以内に取り調べを受け、勾留された場合には最長で20日の身柄拘束が続きます。もし家族が逮捕されたのであれば、すみやかに弁護士のサポートを受けましょう。
-
(1)取り調べ対応のアドバイス
逮捕後の72時間はご家族であっても本人と面会できませんので、痴漢行為が事実であるのか、当日の状況はどうだったのかなどを知る術がありません。しかし弁護士だけは制限なく本人と面会して事実を確認し、今後の対応についてアドバイスを与えられます。
逮捕直後で特に重要なのは、取り調べ対応のアドバイスです。取り調べでは、本人は動揺や不安から、やってもいないことを供述してしまう場合があります。
不利な供述調書を作成されてしまうと後で覆すのは困難なので、弁護士が本人と面会し、取り調べの適切な対応をアドバイスすることが大切です。 -
(2)不起訴処分に向けた弁護活動
逮捕されても不起訴処分となれば早期の社会復帰がかない、前科も付きません。これに対して起訴されると99%以上の確率で有罪判決が下されるため、日常生活に重大な影響をおよぼします。したがって、不起訴処分を得ることが非常に重要です。
そのために、弁護士は次のような弁護活動をおこないます。
- 本人が深く反省している事実を被害者や捜査機関に示すこと
- 被害者との示談を試みること
- ご家族が身元引受人となり監督できる状況を捜査機関に示すこと
特に示談は、加害者の謝罪を被害者が受け入れ、被害弁償もなされた証しになりますので、検察官が不起訴とする可能性が高まります。
しかし痴漢事件では被害者が見ず知らずの人というケースが多く、示談交渉しようにも被害者の連絡先を知る術がありません。
また、痴漢の被害者は通常、処罰感情が高く、加害者側からの接触を嫌う傾向があります。
この点、弁護士であれば捜査機関を通じて、被害者の許可を得たうえで連絡先を入手できる可能性があります。被害者感情に配慮した繊細な交渉も可能です。
5、まとめ
故意に自身の身体をおしつける行為をすれば、痴漢にあたります。満員電車で身動きがとれなかったとしても、それ自体がおしつけ行為を正当化する理由にはなりません。
痴漢の疑いで逮捕されれば、各都道府県の迷惑防止条例または刑法の不同意わいせつ罪に問われる可能性があり、起訴されて有罪判決となり前科がつけば日常生活にもさまざまな影響を及ぼしてしまいます。
家族が痴漢行為で逮捕された、痴漢行為をしてしまった、などという状況の場合、早急に弁護士へ相談し、適切な弁護活動を受けることが大切です。痴漢事件での重い処罰を避けるには、痴漢事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所が力を尽くしますので、まずはご連絡ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
当事務所では、元検事を中心とした刑事専門チームを組成しております。財産事件、性犯罪事件、暴力事件、少年事件など、刑事事件でお困りの場合はぜひご相談ください。
※本コラムは公開日当時の内容です。
刑事事件問題でお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所へお気軽にお問い合わせください。