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暴行罪になる行為とは? 成立の要件や具体的なケースをチェック
令和6年5月に北海道で、自衛隊員の男がスナックに居合わせた人の首を絞めたとして暴行の疑いで逮捕された事件がありました。暴行事件はテレビなどのニュースでも目にすることが比較的多くあります。
令和5年版の犯罪白書によると、令和4年中に認知された暴行事件は2万7849件で、全刑法犯のわずか4.6%を占めるのみでした。このように聞くと少なく感じるかもしれませんが、大部分を占める窃盗を除けば、器物損壊罪・詐欺罪に次ぐ第4位に位置しており、発生件数のみをみれば身近な犯罪だといえます。
日常のちょっとしたトラブルから相手ともめ事になることは珍しくありません。暴行罪と聞くと、相手に直接的な暴力を振るうケースがイメージできるでしょう。しかし、実は直接的な暴力を振るっていない場合でも暴行罪に問われてしまうことがあります。
本コラムでは、暴行罪が成立する要件や罪にあたり得る具体的な行為について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、何をしたら暴行罪? 暴行罪の成立要件とは
暴行罪は刑法第208条に定められています。まずは暴行罪の条文をチェックしてみましょう。
刑法 第208条
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処する
暴行罪の成立要件を考える際に注目すべきは「暴行」という言葉の定義です。
暴行とは「他人の身体に向けた有形力の行使」であると解釈されています。この解釈によると、他人の身体に向けた有形力の行使ですから、他人の身体への直接的な接触までは問わないということになります。つまり、身体への接触がない有形力の行使も間接暴行として暴行罪が成立するわけです。
また、暴行罪は「故意」による行為であることが要件となっています。傷害罪にみられる「過失傷害」のように過失によって生じた結果も処罰されるわけではありません。したがって、たとえば「手を伸ばしたら偶然にも殴る形になった」という場合には暴行罪にあたらないので、処罰の対象にはならないということです。ただし「手を伸ばしたら誰かにあたるかもしれない」と考えていた、など未必の故意といえる状態であれば処罰の対象となります。
暴行罪が成立し、刑事裁判で有罪に処された場合は、法文に示されているとおり2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料の刑罰を受けます。
「懲役(ちょうえき)」は刑務所で服役する刑罰です。他方、「拘留(こうりゅう)」とは、1日以上30日未満のあいだ刑事施設に拘置される刑罰で、いずれも身体を拘束して自由を奪う「自由刑」にあたります。
そして「罰金」はその名のとおり、指定されたお金を支払う刑罰にあたり、「科料(かりょう)」とは、1000円以上1万円未満の罰金を支払う刑罰です。こちらはいずれも財産刑にあたり、身柄の拘束は受けません。ただし、たとえ刑罰が数千円程度の「科料」で済まされたとしても、有罪となった時点で前科がついてしまうことになるため注意が必要です。
たとえば、相手が先に殴ってきたからといって、殴り返してしまったら暴行罪に問われる可能性があるということを覚えておきましょう。
正当防衛が認められる可能性があるのは、自らや第三者の生命身体を守るために行われた場合に限られます。暴行に至った経緯や行動をひとつひとつ確認したうえで、正当防衛が成立するかを判断されることになりますので、やられたらやり返していいというものではありません。
2、暴行罪に問われる可能性がある行為
暴行罪の構成要件となる暴行の行為は非常に広いものです。ここでは、直接的に身体に触れる行為と、身体に触れない行為にわけて、暴行罪に問われる可能性がある行為について解説します。中には「こんな行為が暴行になるのか」と感じるものもあるかもしれません。
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(1)身体に触れる行為
暴行罪にあたる行為のうち、身体に触れる行為としては次のようなものが該当します。
- 顔面や腹部を殴る
- 足で蹴る
- 胸や肩などを強く押す
- 羽交い締めにする
- 髪の毛を引っ張る、切る
これらの行為はほんの一例ですが、すべて暴行罪に問われる可能性がある行為です。 -
(2)身体に触れない行為
実のところ、暴行罪で問題になりやすいのが直接的には身体に触れていない有形力の行使です。身体に触れない行為で暴行罪に問われる可能性がある行為は下記のとおりです。
- 衣服の襟首をつかむ、ネクタイを引っ張る
- 相手につば、水、酒、塩、農薬などを振りかける
- 脅かそうとして目の前に石を投げつける
- 大音量を耳元で鳴らして意識をもうろうとさせる
これらの行為は、いずれも直接的には身体に触れていませんが、相手に向けて有形力が行使されている時点で暴行が成立する可能性があります。
すでに解説したとおり、暴行罪は、他人に対して法律上正当ではない、形のある力を行使することで成立します。これを「不法な有形力の行使」といいます。
身近な例をあげるとすると、有名人が酒に酔ってタクシートラブルを起こしたと報道されることがありますが、たとえば運転席を後ろから蹴るといった行為は、運転手に直接触れていなかったとしても暴行罪に問われますし、相手方に直接的または間接的な影響が生じなかったとしても、人に向けられたもの(たとえば、相手には当たらないけれども、相手に向けて物を投げつける行為)であれば暴行にあたり得ます。
3、暴行を加えた結果、別の罪になることもある
暴行罪は、粗暴な行為によって「結果が生じなかった場合」に適用される犯罪です。つまり、暴行によって別の結果が発生した場合には、暴行罪ではない罪名で処罰を受けることになります。
- 傷害罪(刑法第204条) 暴行罪は「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかった場合」です。したがって、相手に「傷害」、つまり負傷させてしまった場合には暴行罪ではなく傷害罪が適用される可能性が高いでしょう。
- 傷害致死罪(同法第205条) 暴行の結果、相手が死亡してしまった場合は、「傷害致死罪」が適用されるでしょう。
- 殺人罪(同法第199条) 故意に殺害の意図をもって暴行を加えて相手を死に至らしめた場合は「殺人罪」が適用されます。死刑または無期もしくは5年以上の懲役という重罪です。
- 公務執行妨害罪(同法第95条) ケンカの現場などに臨場した警察官の腕を払ったり突き飛ばしたりなど、公務に従事中の公務員に対して暴行を加えた場合は、公務執行妨害罪が適用されます。過去には「警察官の制帽をはじき飛ばした」、「手に持っていたファイルをはたき落とした」といった行為で適用された事例もあります。
傷害罪の法定刑は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」で、傷害の程度によっては相当に重たい刑罰が科せられます。
刑法の条文を厳密に解釈すれば、かすり傷や軽度の内出血が生じただけでも傷害罪に問われる可能性があります。ケンカなどをした結果、相手にケガを負わせた場合は傷害罪で逮捕されることもあるでしょう。負傷の程度がごく軽度の場合でも、検察官が傷害罪として起訴するケースもあり得ます。
傷害致死罪は「相手が死ぬとは思っていなかった」場合においてのみ適用されるものです。通常は相当に過度の暴行が加えられていないと人が死亡することはないと考えられます。
したがって、法定刑は「3年以上の有期懲役」と非常に重たい刑罰が用意されています。
また、殺意をもって暴行を加えたものの相手を死に至らしめなかった場合は、暴行・傷害などではなく殺人未遂罪(同法第203条)となり、殺人罪と同じく刑罰が科せられます。
法定刑は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」です。
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4、暴行罪で逮捕されるケース|逮捕や刑罰を回避するために弁護士ができること
では暴行罪で逮捕されるのはどのようなケースなのでしょうか。また暴行事件を起こしてしまった場合、逮捕や厳しい刑罰を避けるためにどのような対策をとることができるのか、解説します。
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(1)暴行罪で逮捕されるケース
暴行罪で逮捕されるケースの多くが、被害者本人や目撃者の通報によってケンカなどの現場に警察官が臨場し、被害状況の確認が済んだら身柄を確保されるという、いわゆる「現行犯逮捕」と呼ばれる展開です。
また、暴行の現場を誰にも見られていなかったとしても、後日になって逮捕されることがある点には注意が必要です。たとえば、被害者が警察に被害を訴えると、警察官は被害の状況を詳しく聴取します。被害の状況は供述調書という書類に録取され、同時に被害届も受理されます。被害届を受理した警察は、目撃者や被害者・被疑者の直前の行動を知る人からも詳しく事情を聴取しながら、コンビニエンスストアや商業施設などの防犯ビデオカメラを確認し、被害の裏付けを行います。
これらの捜査によって証拠が固まると、警察は裁判所に対して逮捕状の請求を行います。裁判所が逮捕状を発付すると、逮捕状に基づいて逮捕を行います。これが「通常逮捕」です。
ここで留意すべきは「暴行罪が成立したとしても、必ず『逮捕』されるわけではない」という点です。
そもそも「逮捕」は、取り調べなどの際に、「逃亡または証拠隠滅のおそれがある」など、必要に応じて行われる特別な措置のひとつです。つまり、警察に捜査されることになったとしても逮捕はされない可能性があります。具体的には、逃げ隠れせずその場で事情聴取に応じるという姿勢や、住居不定などではなく任意の取り調べにも十分に応じられるという状況を説明できれば、逮捕を免れられる可能性があるでしょう。
また、軽度の暴行であれば、真摯(しんし)に謝罪し被害者の許しを得ることで、事件を検察庁に送致せず警察署限りで終結する「微罪処分」というごく軽い処分となることもあります。
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(2)暴行罪で逮捕や厳しい刑罰を避けるために弁護士ができること
暴行事件を穏便に解決するために重要なことは、被害者との示談交渉です。
示談とは、当事者間の話し合いによって問題を解決する手続きです。その際、加害者は被害者に対して真摯(しんし)に謝罪したうえで精神的苦痛に対する慰謝料を含めた示談金を支払い、被害届や刑事告訴を取り下げてもらうことを目指すのが一般的な示談の流れです。
事件後早期に示談が成立させることができれば、「被害者から許しを得ている、当事者間ですでに和解した」と捜査機関から評価されるので、逮捕や厳しい刑罰を避けられる可能性が高まります。
しかし、加害者本人やその家族が被害者と直接示談交渉を進めるのは容易ではありません。被害者は加害者に対して、恐怖や怒りを感じている場合が多いため、本人同士の話し合いには応じてもらえない可能性が高いでしょう。また加害者が示談交渉を行おうとすると、被害者から必要以上に高額な示談金を請求されてトラブルになる可能性もあります。そのため、示談交渉は第三者である弁護士に一任したうえで進めることが賢明です。
また警察の捜査を受けて逮捕された場合でも、検察官が不起訴の判断をすれば刑事裁判は開かれません。しかしどのような事情があれば不起訴処分を獲得できるか、といったことは事案によってさまざまです。弁護士なら、できる限り有利な結果となるよう対策を尽くして捜査機関にはたらきかけることができるため、まずは弁護士に相談してサポートを求めるのがよいでしょう。
5、まとめ
暴行罪に該当する行為をはたらいてしまったら、まずは相手に対して謝罪を行い、許しを乞うべきです。警察官が現場に駆けつけていたとしても、相手の許しがあり微罪処分というごく軽い処分で済まされれば、前科がつくこともありません。
ただし、相手が警察に被害届を提出していれば「犯人を処罰してほしい」という意思表示があるといえます。したがって、事態は容易には収まりません。弁護士を通じて示談を申し入れ、謝罪を行うとともに被害届の取り下げなどを求めるべきでしょう。
ベリーベスト法律事務所では、暴行事件をはじめ刑事事件の解決に向けた知見が豊富な弁護士が在籍しています。暴行罪にあたる行為をしてしまい警察から連絡がきている、家族が暴行の疑いで逮捕されたなどの場合には、まずはベリーベスト法律事務所にご相談ください。被害者との示談交渉や捜査機関へのはたらきかけなどによって、重い刑罰が下されないように全力でサポートします。
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