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危険運転致死傷罪の構成要件は? 信号無視や飲酒など該当する行為を説明
悲惨な交通死亡事故に対する厳罰化の声を受け、2001年に新設されたのが「危険運転致死傷罪」です。飲酒運転やあおり運転、無免許運転による暴走など、悪質性が高いと認められた危険運転で人を死亡させた場合、原則として最長20年の懲役が科される刑罰です。
令和2年5月には、愛知県の男性が制御困難なスピードで車を暴走させて対向車線側の軽自動車に衝突し、運転手の男性を死亡させて危険運転致死の疑いで逮捕された事件が報じられました。
他にも、危険運転致死傷罪にはさまざまなケースが存在します。それでは、実際にはどのような条件(構成要件)に当てはまれば、危険運転致死傷罪が適用されるのでしょうか。本コラムでは、危険運転致死傷罪が成立する要件をはじめとして、危険運転とされる具体的行為を詳しく解説します。
1、危険運転致死傷罪に該当する行為
危険運転致死傷罪は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(通称:自動車運転処罰法)の第2条における第1号から第6号で、その危険運転の行為が詳しく規定されています。
したがって、そこで定められた危険運転に該当しない交通事故は、危険運転致死傷罪ではなく、過失運転致死傷罪(同法第5条)などによって処罰を受けることになります。
それでは、具体的にどのような行為が危険運転とみなされるか、下記より解説していきましょう。
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(1)飲酒や薬物の影響で正常な運転が困難な場合
アルコール類を摂取したことによる酩酊(めいてい)状態や覚せい剤などによる幻覚状態を起こしているなど、正常な運転が困難な状態で自動車を運転する行為は、危険運転にあたります。
ただし、飲酒運転などが一律に該当するわけではなく、アルコール・薬物の種類や摂取量、酩酊や幻覚状態などの度合い、摂取からの経過時間などから総合的に判断されます。 -
(2)制御不能なスピードで運転する行為
自動車を制御できないほどのスピードで運転する行為も危険運転の代表例といえます。
ただし、一律に「時速◯キロメートルからは危険運転になる」というわけではなく、道路の規制や状況に応じて判断が異なります。直線道路では危険とみなされない速度でも、同じ速度でカーブや交差点に進入すれば「制御できないスピード」となることがあるので注意が必要です。 -
(3)無免許など運転技術が未熟な場合の運転行為
自動車を制御する技能を有しないのに運転する行為は、それ自体が危険運転とみなされます。運転が未熟とされる具体例としては、運転免許の交付を得ていない無免許状態が考えられます。
しかし、無免許であっても一律に運転技能を有していないとはみなされないケースもあります。たとえば、無免許でも日常的に自動車を運転していた経験があれば「技能を有しない」と言いにくく、したがって、無免許であるだけでは危険運転致死傷罪とはなりえない、ということになります。 -
(4)妨害するような運転行為
人やほかの自動車の通行を妨害する目的で、割り込みや幅寄せなど、人や車に著しく接近する行為も危険運転とされます。
ただし、こういったあおり運転には、令和2年6月中に施行予定の「妨害運転罪」が適用されるようになります。しかし、もしも死亡事故に発展すれば危険運転致死傷罪で罰せられます。 -
(5)信号を無視する運転行為
赤色信号、またはこれに相当する信号を殊更(ことさら)に無視し、かつ交通に重大な危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為も危険運転にあたります。
単に「赤信号を無視しただけ」ではなく、要件として「殊更に無視した」ことと「重大な危険を生じさせる速度」が求められます。「殊更に無視した」とは具体的にどのような行為であるかは、次章で詳しく解説します。 -
(6)通行禁止の道路を走行する行為
道路標識や道路標示によって通行禁止が明示されている道路や、法令の規制によって通行が禁止されている道路・部分を、重大な交通の危険が生じる速度で運転すると危険運転とみなされます。
具体的には、車両進入禁止の標識がある道路や、自動車の進入が禁止されている歩行者専用道路を高速度で走行する行為などです。
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2、殊更に無視とはどのような行為か
自動車運転処罰法第2条5号に示されている「赤色信号を殊更に無視」とは、単に赤色信号を無視することだけを示しているのではありません。
第一に、「赤色信号を無視」する行為は、道路交通法第7条において「信号機の表示する信号または警察官による手信号」に従うよう規定されています。そのうえで、道路交通法施行令第2条の規定により、自動車は対面する信号が赤色の場合、停止線を超えて交差点に進入してはならないことが示されています。
第二に、「殊更に」とは「わざと」という意味があります。つまり、赤色信号と知りながらわざと無視した場合に危険運転とみなされるわけです。
たとえば、「用事で急いでいた」「周囲にほかの車がいないように見えた」「警察の追跡から逃げていた」などの理由で、赤色信号に気付いていながら、わざと無視して交差点に進入した結果、交通事故を起こして人を死亡させれば危険運転致死傷罪の適用は免れないでしょう。一方で、前方不注視で赤色信号を見落として事故に至った場合は、過失運転致死傷罪が適用される可能性があります。
3、正常な運転が困難とはどのような状態か
自動車運転処罰法第2条1号の「正常な運転が困難」とは、アルコールや薬物の影響によって、心身が周囲の道路・交通状況に応じた運転操作をできない状態にあることを意味しています。単にアルコールや薬物を摂取した事実があるだけで適用されるのではなく、事故前後の状況から具体的に判断されます。
たとえば、事故発生前から酒に酔ってふらついており蛇行運転をしていた、駆けつけた警察官の聴取にもまともに応じられないくらい意味不明な言動を繰り返していた、などの状況があれば「正常な運転が困難」だったとみなされやすくなるでしょう。
また、対向車線への飛び出しや無制動の追突など、通常の状態では発生しにくい態様の事故も「正常な運転が困難」だったと判断されやすくなります。
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4、取締の対象は原付やバイクも含まれる
道路交通法第2条1項9号は、自動車について下記の通り定義しています。
- 原動機を用いており、かつ、レールや架線によらないで運転する車
したがって、原動機付自転車(原付)などは除外されますが、四輪以上の自動車や自動二輪車(バイク)は、自動車に含まれています。
ところが、自動車運転処罰法では第1条においては下記の通り、自動車を定義しています。
- 道路交通法第2条1項9号に規定する自動車および原動機付自転車
つまり、自動二輪車(バイク)だけではなく、原動機付自転車(原付)であっても、危険運転によって人を死亡させた場合は危険運転致死傷罪によって処罰を受ける可能性があるものと心得ておく必要があるでしょう。
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5、危険運転致死の罪に問われたら弁護士に相談すべき理由
危険運転致死傷罪の容疑者となってしまった場合は、直ちに弁護士に相談しましょう。
交通事故によって大切な人を失ってしまった遺族の心情は察するに余りあるものであり、示談交渉を進めたくても困難なケースが多いでしょう。しかし第三者である弁護士が間に入ることで、冷静な交渉がなされる可能性が高まります。
また、危険運転致死傷罪は、単に「飲酒運転」「信号無視」というだけで適用されるものではありません。自動車運転処罰法に規定された危険運転の各態様に合致しているか具体的な証拠が必要となりますし、もし危険運転ではないことが立証できれば、不起訴処分や執行猶予付きの判決などが期待できるでしょう。
もしも、自動車の人身事故で逮捕された場合、48時間以内に警察の取り調べが行われ検察へ送致されるかが決定します。この間、面会ができるのは弁護士だけです。弁護士が警察に適切な働きかけを行ったり、取り調べの対応をアドバイスしたりすることで早期の身柄釈放や刑罰の軽減も期待できます。そのためにも早い段階で弁護士に依頼するのが賢明です。
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6、まとめ
飲酒によるあおり運転、故意の信号無視といった危険運転で人を死亡させてしまうと、危険運転致死傷罪が適用されて厳しい処罰を受けるおそれがあります。
「私は危険運転をしない」と思っていても、自動車を運転する限りは誰もが加害者となってしまうリスクを抱えているのです。日ごろからしっかりと心構えをしておくだけでなく、加害者となってしまった場合の対応方法も心得ておきましょう。
危険運転致死傷罪の加害者となってしまった際には、厳しい刑罰が科せられることが予想されます。加害者としてお悩みの方やご家族は、早期に交通事故トラブルの解決実績が高いベリーベスト法律事務所にご連絡ください。被害者遺族との示談交渉や、早期の身柄釈放・刑罰の軽減に向けて全力を尽くします。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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